「まさか、ネコミミロリ少女に押し倒される日が来るなんて……」
「あー、事実だけど表現がいろいろ誤解を招きそうなので、とりあえず黙ってくれるかな」

 イーリスさんにやられて落ち込むソル君が、まだブツブツ呟いているので、早々に終了させよう。
「勝負あり! それまで」

 ネコミミの獣人族だけあって、猫のような素早さと脚力を持つイーリスさん。さらに小さな身体なので、益々スピードが早くなる。ただ、スピードは素晴らしいが、その小さな身体故にリーチが短すぎる。
 とは言え、戦闘能力としては余裕で合格だ。
「じゃあ、イーリスさんは合格なので、さっきのテーブルで契約の話をしましょう。そして、ソル君は落ち込んでないで、自己アピール考えといてね。明日、新案件の面接行くよ」

 落ち込んでいたソル君がようやく顔を上げる。
「今回はたまたまイーリスさんに一本取られたけど、ソル君の実力はこんなものじゃないでしょ。次の案件はサブリーダーを任せるので、よろしくね」

 ソル君が小さくガッツポーズを作っていたので、とりあえずフォローは成功だろう。まぁこの件に関係なく、元々新案件にあてるつもりだったけど。

 ロビーへ戻ると、ユカ君が既に契約書一式を用意してくれていた。
「では、この契約書と重要事項説明書について、まずは重要事項を簡単に説明させてもらいますね」
「……」

 ダメだ。この時点で既にイーリスさんが混乱している。
「えっと、明日からのお仕事の説明しますね」
「はいー」
「Ⅰ.朝9時から夕方5時まで働いてください。
 Ⅱ.働く内容はパーティのリーダーが指示してくれるので、従ってください。
 Ⅲ.5日働いたら2日休んで良いです。
 ここまでは大丈夫です?」

 若干不安なので一応確認してみると、小さく頷いてくれた。
「続けますね。
 Ⅳ.働く日でも、依頼がない場合があります。そんな場合や休みの日でも、部屋とご飯と1日のお給料は保障します。
 Ⅴ.魔道通信機を渡すので、休みの日でも常に持っておいてください。緊急で呼び出すことがあります」
「んーと、Ⅳの『依頼がない日』は何をするのー?」
「好きなことしてて良いですよ。だけど、ギルドの近くには居てくださいね」

 残業とか出張費のこと、依頼から報酬までの話とかを、かなり噛み砕いて説明。
「重要事項はこんなところかな。最後に契約の話ですが、うちのギルドで最も大事なルールがあります」
「はいー」
「うちのギルドに加盟した人は全員家族になること。そして、家族が困っている時には、絶対助け合うこと」

 ギルドメンバー全員と親密になれというのは無理がある。当然、意見がぶつかることだってある。だけど、本当の家族だって意見がぶつかったりすることや、仲が悪いなんてこともある。それでも、家族なんだから困っている時には、家族全員で助けてやる……それが僕とうちのギルドの理念だ。
「わかったー」
「じゃあ、ここにサインして」

 サインされた契約書を貰う。
「これでイーリスさんは、うちの家族の一員だね。
 冒険者ギルドへようこそ!」

 うちのギルドに新たなメンバーが加わった。